■ カ類(蚊)
● 種類別まとめ(表)
種類 | 生息地域 | 発生場所 | 媒介する疾病 | 特徴 |
チカイエカ | 九州~北海道 | 浄化槽 | ― | 昼夜吸血、アカイエカに似る、無吸血産卵可、冬季休眠しない |
アカイエカ | 九州~北海道 | 下水溝・雨水ます | ― | 夜間吸血、1.2m以上移動可能 |
ヒトスジシマカ | 南西諸島~東北 | 人工容器・雨水ます | ジカウイルス、デング熱、チクングニア熱 | 昼間吸血、吸血源多様、150m移動、冬季は卵で越冬 |
コガタアカイエカ | 北海道少ない | 水田・湿地 | 日本脳炎 | 数十km移動可能 |
シナハマダラカ | 九州~北海道 | 水田・湿地 | マラリア | ― |
※ ウエストナイル熱もカ類が媒介する。
■ ゴキブリ類
● 特徴(全般)
・変態:不完全変態(幼虫→成虫)
・生活習性:夜行性、雑食性、集合フェロモンを持つ
・屋外生活:可(例:クロゴキブリ)
・生息環境:暖房のあるビルでは通年生息可能
● 主な種類と特徴
・チャバネゴキブリ
卵鞘を固着せず、ふ化まで身体に保持
毒餌への喫食抵抗性ありとの報告あり
通年活動(休眠性なし)
一生で5回産卵
・クロゴキブリ/ワモンゴキブリ/ヤマトゴキブリ
屋外生活も可能
● 処理方法と薬剤(表)
処理方法 | 内容・特徴 |
残留処理 | 通路などに薬剤散布。薬剤:有機リン系(追い出し効果なし)、ピレスロイド系(あり) |
空間処理 | ULV処理(部屋全体に散布、速効性あり・残効性なし) |
毒餌処理 | 経口摂取タイプ:ホウ酸、ヒドラメチルノン、フィプロニルなど |
● 用語・ポイント
・ローチスポット:ゴキブリの活動場所にできる排泄物等の汚れ
・ゴキブリ指数:
=全補機数+トラップ数+日数
→1日1トラップあたりの捕獲数で評価
■ ダニ類
種類 | 寄生先/特徴 | 媒介感染症 |
イエダニ | ネズミ類に寄生/吸血性 | ― |
ツメダニ | 他のダニやチャタテムシを捕食/ヒトを吸血しない | ― |
ヒゼンダニ | ヒトの皮膚に寄生/吸血しない | 疥癬(かいせん) |
マダニ | ペット(犬など)に寄生/全成長段階で吸血 | SFTS、日本紅斑熱、ライム病 |
トリサシダニ・ワクモ | 野鳥に寄生/吸血性 | ― |
コナダニ | 25°C、湿度60%以上で発生/保存食品・畳 | ― |
カベアナタカラダニ | 建物の外壁に出現/ヒトへの加害なし | ― |
ヒョウヒダニ | アレルゲン/殺虫剤に抵抗性/環境対策が基本 | 気管支喘息 |
■ ハエ類
種類 | 発生源・特徴 | 媒介感染症/備考 |
イエバエ | 鶏舎・ゴミ処理場/ピレスロイド剤に抵抗性 | O-157 |
ニクバエ | 卵ではなく幼虫を産む | ― |
クロバエ | 気温の低い時期に出現/大型 | ― |
キンバエ | ハエ症の原因 | ― |
ノミバエ類 | 走光性/スカムから発生/素早く歩く | ― |
ショウジョウバエ | 腐敗した果物・植物から発生 | ― |
チョウバエ類 | 汚水・浄化槽表面・下水などから発生 | ― |
ニセケバエ類 | 植物肥料(油かすなど)から発生 | ― |
■ ネズミ類(生態・特徴)
種類 | 活動地・特徴 | 食性 | 容姿など |
クマネズミ | 都心ビル/高い連係能力/壁も登る | 植物性強い | 尾長い(体長より長)/耳大きい |
ドブネズミ | 地下・低層階・水辺/泳ぎ得意/臆病 | 動物性好む | 尾短め/耳小さい |
ハツカネズミ | 港湾・農村・ビル内/行動範囲狭い | 種子食性 | 小形/耳大きい/特有の臭い |
● 媒介感染症:レプトスピラ症、ペスト、ラッサ熱 など
● 防除の基本(IPM):
① 餌を断つ
② 殺鼠剤を適切に使用
③ 通路を遮断(侵入防止)
● ラットサイン:足跡、かじり跡、糞尿などの痕跡
● ラブサイン:体の脂・汚れによる壁や配管のこすり跡
● 調査頻度
・食品取扱区域:2ヶ月以内ごと
・それ以外の区域:6ヶ月以内ごと
■ その他衛生害虫
種類 | 特徴・媒介感染症など |
トコジラミ | カメムシ近縁種/夜間吸血/幼虫・成虫とも吸血 |
コロモジラミ・アタマジラミ | 吸血後の強い痒み/下着や頭髪に寄生/発疹チフス・シラミ症 |
カツオブシムシ類 | 幼虫が加害/フェロモントラップが有効 |
タバコシバンムシ | 保存食品などを加害 |
ヒメマルカツオブシムシ | 幼虫が加害 |
スズメバチ | アナフィラキシーショックの危険/特定外来生物 |
シバンムシアリガタバチ | シバンムシの老齢幼虫に外部寄生 |
ネコノミ | 成虫のみ吸血/空腹に強い |
■ 殺虫剤の分類と特徴(一覧表)
分類 | 代表薬剤 | 特徴・備考 |
有機リン剤 | ジクロルボス | 急性毒性高/速効性高・残効性なし/脂蒸散剤(チョウバエ類に有効) |
フェニトロチオン | 対称型/マイクロカプセル(MC)剤あり | |
プロペタンホス | 非対称型/MC剤あり | |
ピレスロイド剤 | メトフルトリン | 常温揮散でも効力あり/ノックダウン後に蘇生あり/除虫菊類似/忌避効果なし |
フェノトリン、ベルメトリン、エトフェンプロックス、フタルスリン | 炭酸ガス製剤あり | |
昆虫成長制御剤(IGR) | ピリプロキシフェン | 幼若ホルモン様/羽化阻害 |
ジフルベンズロン | 脱皮阻害 | |
カーバメート剤 | プロポクスル | 国内で唯一認可 |
食毒剤 | ホウ酸、ヒドラメチルノン | 経口毒性/遅効性中心 |
温差剤(虫よけ) | イカジリン、ディート | 忌避目的(効果は限定的) |
■ 殺鼠剤の分類と特徴
分類 | 代表成分 | 特徴・備考 |
抗凝血性(第1世代) | クマテトラリル、フマリン、ワルファリン | 反復摂取が必要/選択性あり |
抗凝血性(第2世代) | ジフェチアロール、ブロマジオロン | 少量単回でも致死効果/特定建築物内使用不可 |
急性殺鼠剤 | リン化亜鉛など | 急性毒性/即効性ありだが忌避性もある |
忌避剤 | カプサイシン、シクロヘキシイミド | 追い出し目的/殺鼠効果なし |
■ 殺虫・殺鼠剤の毒性評価指標
指標 | 意味 |
LD50 | 半数致死量(少ないほど毒性が強い) |
LC50 | 半数致死濃度 |
IC50 | 半数阻害濃度 |
KT50 | 50%ノックダウン時間 |
NOAEL | 無毒性量(長期連続投与で毒性が出ない量) |
ADI | 一日摂取許容量(ヒトに安全な摂取上限) |
■ 殺虫剤の使用に関する注意点
・速効性のある薬剤=残効性に欠ける傾向あり
・同じ薬剤を繰り返し使うと、抵抗性が発達する
・薬剤抵抗性は免疫ではなく自然選択によるもの(環境適応)
・薬剤切り替えが重要。単に高濃度で複数回使うのは×
・殺虫剤の多くは劇薬に該当
・ピレスロイド剤は、忌避効果はない
・除虫菊の成分類似 → ピレスロイド系
・〇〇ホス=有機リン系、〇〇リン=ピレスロイド系(語呂合わせで覚える)
■ 防除機器・手法(粒径順)
機器種別 | 用途・特徴 |
煙霧機(油性) | 煙状/粒径大/速効性/密閉空間で使用 |
噴霧器 | 一般的/粒径中 |
ミスト機 | 蚊・チョウバエ成虫に使用/排水槽など |
ULV機(超低容量) | 粒径小/乳剤/低濃度・多量散布/速効性高 |
手動散粉機 | 隙間・割れ目に対応 |
粘着トラップ類 | ハエ・ダニ・ゴキブリの調査/ローチスポットの目安 |
■ 防除構造・IPMの要点
・通風口・換気口の金属格子幅は1cm以下
・1階窓の下端は地面から90cm以上
・網戸は16メッシュ以上が侵入防止に有効
・IPM=総合的有害生物管理
→「予防重視」「生息密度調査」「目標水準設定」「段階的作業」
水準 | 内容 |
許容水準 | 良好な状態。定期調査継続 |
警戒水準 | 今後問題が起こる可能性あり |
措置水準 | 即時対応・防除作業が必要 |
■ その他よく問われるポイント
・ULV処理:速効性高いが残効性なし/煙感知器に誤作動注意
・同じ薬剤を繰り返し使用しないことが抵抗性防止の基本
・医薬品・医薬部外品として承認されている薬剤のみ使用可能
・殺虫剤散布3日前までに通知、散布後も掲示必要
・毒餌は周辺にエサがあると効果が落ちる/並べて設置が望ましい
・薬剤散布後に虫が減らなければ薬剤変更を検討
■ IPM(総合的有害生物管理)
・IPMとは?
→「Integrated Pest Management(総合的有害生物管理)」
→ 発生予防を重視し、薬剤以外の方法も活用する防除手法
・基本方針
・生息密度調査
・防除目標の設定
・防除手法の選定(環境改善、物理的防除など)
・評価と記録
・誤りに注意:「IPMでは薬剤を使わない」→×
→必要に応じて薬剤も使用するが最終手段として位置付ける
● IPMにおける水準の定義
水準 | 内容 |
許容水準 | 環境衛生上良好。定期調査継続でOK |
警戒水準 | 放置すると悪化の恐れ。予防的対応が望ましい |
措置水準 | 即時に防除作業が必要なレベル。計画的・段階的に対策を講じる |
・許容水準の場合 → 原則6ヶ月に1回以上の調査(多発地点は2ヶ月に1回)
■ ペストコントロール
・pest(ペスト)=有害生物(ネズミ・虫など)
・2つの側面がある:
種類 | 内容 |
ベクターコントロール | 感染症を媒介する衛生害虫の防除 |
ニューサンスコントロール | 不快感を与える害虫の防除(例:ハエなど) |
■ 防虫・防鼠構造(建築的対策)
対策内容 | 基準値・注意点 |
網戸の網目 | 16メッシュ以上 |
金属格子の目の幅 | 1cm以下 |
1階の窓の下端と地表の距離 | 90cm以上 |
電撃殺虫機の設置位置 | 窓・出入口から離して設置 |
ライトトラップ | 短波長誘引ランプで害虫を捕獲する器具 |
昆虫誘引性比較 | 自色蛍光灯>高圧ナトリウム灯 |
■ 殺虫剤の毒性・効果の評価指標
指標 | 意味 |
LD50 | 半数致死量(低いほど毒性が強い) |
LC50 | 半数致死濃度(液体や気体の濃度で表す) |
IC50 | 50%阻害濃度(成虫化を阻害など) |
KT50 | ノックダウンまでの時間(50%が倒れるまでの時間) |
NOAEL | 毒性が認められない最大投与量(長期連続投与) |
ADI | 一日摂取許容量(毎日摂取しても影響が出ない薬量) |
■ 正誤対策
・「殺虫剤は医薬品または医薬部外品として承認されたものを使用」
・「殺虫剤散布は3日前までに通知、掲示も必要」
・「殺虫剤の効果がない場合は他の薬剤に切り替える」
・「同じ薬剤を高濃度で複数回使うのは×:抵抗性が発達するため」
・薬剤抵抗性は免疫ではなく、淘汰(環境適応)によって生じる
● 用語
用語 | 意味 |
選択毒性 | 害虫には強く作用し、人間や哺乳類には影響が少ない性質 |
薬剤抵抗性 | 殺虫剤への耐性が数世代にわたり遺伝する現象 |
水性乳剤 | 希釈しても乳化しない。環境負荷が低い |
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